紅茶がさめる
「紅茶が冷めますよ」
わたしは声には出しませんでした。
そのお客様はたまに来てくれるかわいい女性のかたでした。
その日は男性を連れて来ていただいて、奥のソファに座りました。
とても静かなお二人で、あまり話をしていないようです
「紅茶とコーヒーをください」
わたしはカップをふたつ温めてひとつは紅茶を、
もうひとつにはコーヒーをコポコポ入れて運びました。
「お待たせしました」
二人はずっと黙ったままで彼女のほうは下を向いています。
それから時間はゆっくりと流れました。
店内はショパンのピアノの曲が小さく流れていて
外では夕暮れの鳥たちが巣に帰っていくようでした。
チラっと二人を見ると彼が席を立ち、店を出ていくところでした。
「ありがとうございました」
見ると彼女のほうは座ったまま下を向いています。
紅茶には手をつけてないみたいで、そのまま目の前にありました。
「紅茶がさめますよ」
いまの彼女への言葉は、いったい何が一番なのだろうか
きっとわたしはもう少ししたら
熱い熱い紅茶を入れたカップを彼女の前に置くでしょう。
「お熱いうちにどうぞ」
と言って。